交通事故や労災事故などで身体に傷害を負った際、治療の過程で頻繁に耳にするのが「症状固定」という言葉と、それに続く「後遺症診断書」の重要性です。この二つの概念は密接に関係しており、適切な損害賠償を受ける上で深く理解しておく必要があります。まず、「症状固定」とは、医学的な観点からこれ以上治療を継続しても、その症状の改善が見込めない状態を指します。つまり、これ以上治療しても回復しないと医師が判断した時点が症状固定であり、この日をもって治療は終了となります。症状固定は、あくまで医師が下す医学的判断であり、患者自身が痛みが残っていると感じていても、医師が症状固定と判断すれば、その後の症状は「後遺症」として扱われることになります。この症状固定の時期は、怪我の種類や程度によって大きく異なり、数週間で症状固定となる場合もあれば、数ヶ月から数年にわたる治療を経て症状固定となる場合もあります。症状固定と診断された後も身体に残る痛み、しびれ、機能障害などの症状が「後遺症」です。この後遺症が、自賠責保険や任意保険の後遺障害等級認定の対象となるかどうかを評価するために必要となるのが「後遺症診断書」、正式には「後遺障害診断書」です。この診断書は、症状固定と診断した主治医によって作成されます。診断書には、傷病名、症状固定日、そして最も重要な残存症状の詳細が記載されます。残存症状の記述においては、単に「痛みがある」というだけでなく、いつ、どこで、どのような痛みが生じるのか、それが日常生活や仕事にどのような影響を与えているのかといった自覚症状を具体的に記載することが求められます。さらに、医師による客観的な他覚所見、すなわち画像検査(レントゲン、MRI、CTなど)の結果や、神経学的検査(筋力テスト、感覚テスト、反射テストなど)の結果が詳細に盛り込まれることが重要です。自賠責保険の後遺障害等級認定においては、自覚症状だけでなく、これらの客観的な他覚所見によって後遺症の存在が裏付けられるかどうかが厳しく審査されます。症状固定の診断が早すぎると、まだ症状が改善する余地があるにもかかわらず後遺症として評価されてしまい、十分な治療を受けられない可能性があります。