子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスの感染を防ぐHPVワクチンは、日本では2010年から公費助成が始まり、2013年4月には定期接種化されましたが、その直後から接種後の広範な痛みや運動障害といった多様な症状が報道され、わずか2か月で国による積極的勧奨が中止されるという異例の事態となりました。それから約9年もの間、積極的な勧奨が差し控えられたことで、日本では多くの世代が接種機会を逃すことになりましたが、2022年4月にようやく勧奨が再開されました。この空白期間において、いわゆる後遺症として語られてきた症状の正体について、国内外で膨大な調査と研究が行われてきました。世界保健機関などの国際機関や日本の厚生労働省の検討部会は、報告された多様な症状とワクチンとの間に科学的な因果関係は認められないという見解を一貫して示しています。しかし、実際に体調を崩し、学校に通えなくなったり日常生活に支障をきたしたりした若者が存在することは事実であり、それらの症状は現在、機能性身体症状として理解されつつあります。これは身体に明らかな器質的異常が見つからなくても、心身の相関や神経系の過敏反応によって痛みや震えが生じる状態で、決して本人の気のせいではなく、医学的なケアが必要な病態です。現在、後遺症を心配する声に対して、国は全国の都道府県に1箇所以上の協力医療機関を設置し、神経内科や精神科などが連携して診療にあたる体制を整えています。また、2013年当時にはなかった9価ワクチンであるシルガード9も導入され、従来よりも高い予防効果と安全性の両立が図られています。積極的勧奨が止まっていた期間に接種機会を逃した女性に対しては、2025年3月末までの期間限定でキャッチアップ接種という無償提供の仕組みが設けられており、多くの人がその後の健康を守るための選択を迫られています。ワクチンの効果は子宮頸がんの前がん病変を劇的に減らすことが証明されており、ノルウェーやイギリスなどの先行国ではがんそのものの発症率が激減しているというデータも出ています。その一方で、過去の報道による恐怖心が払拭されていない現状もあり、個人の納得感に基づいた意思決定が何よりも重要です。後遺症と呼ばれる症状のその後を追跡した調査では、適切な治療や時間の経過によって多くの患者が改善に向かっていることも報告されていますが、重い症状が長期化しているケースもゼロではありません。医学的なエビデンスと、個人の苦しみへの寄り添いという両輪をどう維持していくかが、これからの日本の公衆衛生における大きな課題となっています。
HPVワクチン副反応の歴史と現状