本日は長年成人期における川崎病後遺症の診療に携わってきた循環器専門医の視点からこの問題の本質と適切な管理の在り方についてお話しします。診察室で多くの患者さんと接していて最も危惧するのは川崎病が子供の時に治った病気として片付けられてしまっている現状です。医学的には川崎病による冠動脈の損傷は急性期の炎症が治まった後に再構築というプロセスを経て生涯続く組織の変化として残ります。この再構築された血管が加齢という生理的変化にどう適応していくかが大人の後遺症管理の核心となります。専門医としてまず強調したいのは冠動脈瘤の大きさに応じた個別化されたリスク評価の必要性です。直径が4ミリ未満の中等度以下の瘤であった方は比較的予後は良好ですがそれでも血管のしなやかさが失われている場合があります。一方、8ミリを超える巨大瘤があった方はたとえ現在は血流が保たれていても瘤の入り口や出口で血液が渦を巻き血栓ができやすい状況にあります。このような方にはワーファリンやアスピリンなどの強力な抗血栓療法が必要となりますが大人の生活ではアルコールの摂取や怪我のリスク、他の薬との飲み合わせなど小児期にはなかった管理の難しさが出てきます。また診断技術の向上についても触れておかなければなりません。かつてはカテーテル検査が中心でしたが現在はマルチスライスCTの進化により冠動脈の3次元的な構造や壁の石灰化の程度を非侵襲的に把握できるようになりました。これにより無症状のうちに進行している血管の狭窄を早期に発見することが可能となっています。私たちは20代という若い世代であっても既往歴がある方には積極的なスクリーニングを推奨しています。なぜなら川崎病由来の狭窄は通常の動脈硬化よりも進行が速くかつ急激な閉塞を招く恐れがあるからです。最後に患者さんとそのご家族に伝えたいのは移行期医療の主役は患者さん自身であるということです。小児科の先生から渡されたバトンをどのタイミングでどの病院の先生に繋ぐのかそれを自分の人生の重要なイベントとして捉えてください。私たちは皆さんがかつて乗り越えた川崎病という試練が大人の人生において二度と悲劇を繰り返さないよう最新の知見と技術でサポートする準備ができています。痛みが出てからでは遅いのです。静かな血管の声を聴くために定期的な検査という対話を生涯続けていただきたいと切に願っています。