川崎病は主に4歳以下の乳幼児に多く見られる原因不明の血管炎であり全身の動脈、特に心臓を養う冠動脈に強い炎症を引き起こすことが知られています。急性期の治療によって熱が下がり見た目には完治したように思えてもその後の人生、特に大人になってから深刻な後遺症として現れるリスクを孕んでいるのがこの病気の最も警戒すべき点です。川崎病の最大の合併症は炎症によって冠動脈の壁が脆くなり、こぶのように膨らむ冠動脈瘤の形成です。医学的な統計によれば急性期に適切な治療を受けなかった場合、約25パーセントの割合で冠動脈瘤が発生するとされていますが現在ではガンマグロブリン療法などの普及によりその確率は劇的に低下しています。しかし一度形成された冠動脈瘤が大人になってからどのような運命を辿るかについては長期的な観察が不可欠です。小さな冠動脈瘤は数年以内に退縮し正常な血管径に戻ることが多いですがこれを医学的には退縮(レグレッション)と呼びます。しかし見た目の径が元に戻ったとしてもその血管壁は正常な状態とは異なり内皮機能が低下していたり将来的に動脈硬化が早期に進行しやすかったりすることが指摘されています。一方、直径が8ミリを超えるような巨大冠動脈瘤は自然に消えることはほとんどなく時間の経過とともに内部で血栓が形成されたり壁にカルシウムが沈着して石灰化が進んだりします。これが20代や30代、あるいはそれ以上の年齢になってから冠動脈の狭窄や閉塞を招き突然の心筋梗塞や狭心症を引き起こす原因となるのです。大人の川崎病後遺症において特に厄介なのは本人が幼少期の病歴を正確に把握していないケースや小児科を卒業した後に定期検診を中断してしまうケースが多いことです。冠動脈の異常はかなり進行するまで自覚症状が出にくいためある日突然、胸の痛みや息切れを感じて病院に運ばれた際に初めて過去の川崎病との関連が判明することも少なくありません。成人期における管理では心エコー検査だけでなく必要に応じてCT検査やMRI検査、あるいはカテーテル検査を用いて冠動脈の走行や血流の状態を詳細に評価することが求められます。また石灰化が進んだ血管は通常の風船療法やステント治療が困難な場合もありバイパス手術が必要になることもあります。さらに川崎病は血管だけでなく心臓の筋肉そのものや弁にも影響を及ぼすことがあります。慢性的な虚血が続くことで心機能が低下し心不全を呈したり不整脈の原因になったりすることもあります。このような将来的なリスクを最小限に抑えるためには小児科から成人循環器内科へのスムーズな移行、いわゆる移行期医療が極めて重要です。自分自身がかつて川崎病に罹患しどのような経過を辿ったのかを知っておくことは単なる過去の記録ではなく大人の健康を維持するための最も強力な防衛策となります。血管の健康を左右する脂質異常症や高血圧、喫煙といった一般的な動脈硬化のリスク因子を徹底的に管理することも川崎病既往者には人一倍強く求められるのです。