本日は、長年脊椎の外科治療に携わってきた専門医の視点から、むちうちの診断において何科がどのような役割を担うのかを詳しくお話しします。診察室で患者さんから1番多く受ける質問は、やはり何科が1番早く治してくれますかというものです。医師として申し上げたいのは、治すのは患者さん自身の治癒力であり、我々医師の役割は、その治癒力を最大限に引き出すための正確な診断と環境設定であるということです。まず整形外科での検査についてですが、レントゲンは骨の並びを確認するために必須です。むちうちの患者さんの多くに、通常なら緩やかなカーブを描いているはずの頚椎が、真っ直ぐになってしまうストレートネックや、逆に反ってしまう逆カーブの現象が見られます。これを確認することで、どの程度の衝撃が首に加わったのかを推測できます。しかし、レントゲンでは筋肉や神経の微細な損傷は映りません。そこで重要なのがMRIです。MRIは強力な磁石の力で身体の断面図を撮るもので、椎間板ヘルニアの有無や脊髄神経の炎症状態を一目瞭然にします。特に手のしびれがある場合は、MRIなしでは正確な診断は不可能です。次に診療科の使い分けですが、多くの一般的なむちうちは整形外科で完結します。しかし、中には特定の症状が突出して現れるケースがあります。例えば、立っていられないほどの激しいめまいや、耳鳴り、視力の低下といった自律神経症状が顕著な場合、これは後部頚交感神経症候群(バレー・リュウ症候群)が疑われます。この場合、循環器や神経系の専門的な知識を持つ脳神経内科や、耳鼻咽喉科と連携することがあります。首は脳と身体を繋ぐ全ての神経が通る要所ですから、不調の原因が脳にあるのか、それとも首の関節にあるのかを切り分けることが非常に重要になります。また、痛みの慢性化は脳の痛みのフィルターを弱め、うつ症状や睡眠障害を招くこともあります。そうなれば、心療内科のアプローチも必要になるかもしれません。むちうち治療のゴールは、単に痛みを消すことだけでなく、事故前の生活の質を取り戻すことにあります。そのためには、1つの診療科に固執せず、必要に応じて複数の専門医の意見を聞く柔軟性も大切です。まずは地域の整形外科を拠点にし、そこでの治療が停滞していると感じたときには、主治医に相談して専門病院への紹介状を書いてもらうのが、日本の医療システムを賢く利用するコツと言えるでしょう。
専門医に聞くむちうちの診断に適した検査と診療科の役割