脳出血の身体的な後遺症が改善した後に、多くの患者や家族を悩ませるのが高次脳機能障害という深刻な問題です。これは記憶、注意、言語、思考、感情といった脳の高度な情報処理機能が、出血によるダメージで部分的に損なわれる状態を指します。身体の麻痺のように目に見えないため、本人も周囲も障害があることに気づかず、性格が変わった、だらしなくなった、仕事ができなくなった、と誤解され、人間関係や社会生活に深刻な摩擦を生むことが少なくありません。具体的な症状としては、まず注意障害が挙げられます。複数のことを同時にこなせない、ミスを連発する、あるいは集中力が続かないといった現象です。また、記憶障害では、新しいことが覚えられず、数分前の会話の内容を忘れてしまうといったことが起こります。遂行機能障害も特徴的で、物事の計画を立てて順序よく進めることができなくなり、日常生活の段取りが組めなくなります。さらに深刻なのが社会的行動障害です。感情の抑制が効かずに急に怒り出したり、場の空気が読めない行動をとったり、あるいは極端に意欲を失って自発性がなくなったりします。左半側空間無視という症状では、視力に問題がないにもかかわらず、意識の中で左側の世界が消えてしまい、左側にある障害物にぶつかったり、左側のおかずだけを残したりすることがあります。これらの後遺症に対する第1の対処法は、何よりも障害を障害として正しく認識することです。本人の努力不足ではなく、脳というハードウェアの故障であることを周囲が理解し、環境を調整することが不可欠です。例えば、記憶障害があるならメモ帳やスマートフォンのアラームを徹底的に活用し、情報を視覚化する工夫をします。注意障害があるなら、静かな場所で1つのことに集中できる環境を整えます。リハビリテーションでは、これらの認知機能の偏りを補うためのトレーニングが専門の言語聴覚士や作業療法士によって行われます。脳出血の後遺症としての高次脳機能障害は、完全に治ることが難しくても、適切な代償手段を身につけることで、再び社会と折り合いをつけて生活することは十分に可能です。本人のプライドを傷つけず、冷静に症状を分析し、共生していくための知恵を共有することが、家族にとっても再生への鍵となります。